2009-01-01から1年間の記事一覧

彦根の名刹

近江国彦根に帰省中なので、ローカルな話題でも。 臨済宗の名刹・龍潭寺。 井伊直政が同国佐和山城主に封じられたのを機に、遠江国浜松の龍潭寺から分寺された井伊家の菩提寺。庭園で名高い。禅宗大学寮として発展し、特に「園頭科」はわが国造園学の発祥と…

Enchiridion 25-3 ロジャー・アスカム その3

確かに常套句集は、人を整理された一般的知識へと導き、読んで学んだ事柄を整然と引用させ、確かな主題に向かわせ学習を散漫にさせないために、欠くべからざるものである。※ だが、いつも抜粋集や常套句集と首っ引きで、規則正しい学習を日々課されず、聖書…

Enchiridion 25-2 ロジャー・アスカム その2

このようにつらつら述べ立てて、私は何も、若き紳士は常に一冊の書物に沈潜しておらねばならんとか、優れた先学の言を持ち出しては、正当な娯楽でも見向きもするなとか、どんなに適切でも気晴らしはいかんとか言いたいのではない。それは本意でない。なんと…

Enchiridion 25-1 ロジャー・アスカム その1

ロジャー・アスカム 1515-1568 ※1 ドイツへ発つ前に、私はご愛顧賜ったかのやんごとなきレディ、ジェーン・グレイ※2に暇乞い申し上げるべく、レスターシアのブロードゲイトに立ち寄った。公爵であらせられた彼女のご両親は、家中の者に紳士淑女を引き連れ、…

明治の記憶術ブーム

岩井洋 『記憶術のススメ―近代日本と立身出世』 青弓社、1997年 明治20年代に巻き起こった記憶術ブームを通して、近代日本の思考様式や社会システムの変化を描くという試み。 明治期に刊行された記憶術書は翻訳も含めて24点、そのうち16点が明治20年代のもの…

知の編集空間としての庭園

桑木野幸司 「知の編集空間としての初期近代イタリアの庭園―Agostino Del Riccioの理想苑構想におけるインプレーザ、エンブレム、常套主題(loci communes)」 『地中海学研究』32、2009年、3-28頁 9月に出た同氏の「建築的記憶術、あるいは魂の究理器機」(…

「図書館から図書環へ」

d-log.トークセッション 「これからの知―情報環境は人と知の関わりを変えるか」(@東京ミッドタウン)に行く。国立国会図書館・長尾真館長の対談シリーズ「図書館は視えなくなるか?―データベースからアーキテクチャへ」(全4回)の最終回。今回の対談相手…

回文へのこだわり 和蛸の変部位か

日曜日に行ったアトリエ空中線10周年記念展でもとめた回文詩集。 未生響 『回文戯詩 カイゼル製菓』(ビブリオ・アンテナ5) 空中線書局、2000年 福田尚代氏の回文とはまた違った、硬質な響きが印象的。未生氏自身による造本が凝っていて、金ベタ白ヌキの本…

回文転文10部以下 (かいぶんてんぶんてんぶいか)

先月見た、うらわ美術館の「オブジェの方へ―変貌する「本」の世界」展。内外の名だたる作家の作品が並ぶ中、ひときわ異彩を放っていたのが、福田尚代氏の作品だった。12月2日(水)の朝日新聞夕刊に写真つきで紹介されている。書物を羽ばたかせ、羅漢にまで…

槐多のガランス

渋谷のポスターハリスギャラリーで、アトリエ空中線10周年記念展「インディペンデント・プレスの展開」を見てから、松濤美術館の「没後90年 村山槐多 ガランスの悦楽」展に行く。 絵を描き、詩をつづり、歌を詠み、小説戯曲を書いて22年5ヶ月を生き去った村…

Enchiridion 24 ルター

マルティン・ルター 1483-1546 優れた書物はその一冊一冊がひとつの業であり、優れた業はそのひとつひとつが一冊の書物にも等しい。 いかなる学問の徒であれ、書物はすべからく確かなものを厳選し、何度も何度も読むべきだ。多読しても学問は修まらず、むし…

Enchiridion 23 マキァヴェッリ

ニッコロ・マキァヴェッリ 1469-1527 晩になると、家に帰って書斎に入ります。入口のところで泥や汚れにまみれた普段着を脱ぎ、りっぱな礼服をまといます。身なりを整えたら、古の人々が集う古の宮廷に入ります。私は彼らに暖かく迎えられて、かの糧を食しま…

Enchiridion 22 エラスムス

デシデリウス・エラスムス 1467-1536 なにより肝心なのは、得る知識の量ではなく、その質なのです。でもここで君に、勉強がより確かなものになるばかりか、より易しくなる方法を教えましょう。職人たるもの、自分の仕事には確たる規則を持って臨むものです。…

Enchiridion 21 リンゲルベルギウス

ヨアキムス・フォルティウス・リンゲルベルギウス 1536没 学問を始めたばかりのころは、たいして進歩が実感できなくとも意気消沈してはならぬ。なんとなれば、その瞬間の動きが捉えられなくとも時計の針の確実なる進み具合は分かるように、あるいは、その時…

冷泉家の秘籍

東京都美術館の「冷泉家 王朝の和歌守(うたもり)展」に行く。藤原俊成・定家を祖に持つ冷泉家によって、800年にわたり守り伝えられてきた和歌の典籍類が一挙公開されている。今日は本来休館日だが、企画展ごとに設けられる「障害がある方々の特別鑑賞会」…

美術は言葉に翻訳できるか その2

埼玉県立近代美術館の「視覚障害者と楽しむ美術作品鑑賞会」に参加する。同県主催では初の試みだそうだが、後援がミュージアム・アクセス・グループMARなので、事実上はいつものMARの鑑賞ツアーである。東京都美術館の人が偵察に来ている。視覚障害者一人に…

リーヴル・オブジェ

浦和に来たついでに、うらわ美術館の「オブジェの方へ―変貌する「本」の世界」を見る。未来派から現代作家までの、「本」をテーマとした作品の展示会。1時間半くらいいたが、客はほぼ自分ひとりという盛況ぶり。以下、個人的に面白いと思ったもの。 イー・ジ…

Enchiridion 20 トマス・ア・ケンピス

トマス・ア・ケンピス 1380-1471 審判の日が来るとき、私たちが糾問されるのは、何を読んだか、ではなくて、何をしたか、であろう。またどれほど巧みに話したか、ではなく、私たちがどれほど教えに遵って生きたかであろう。 『キリストにならいて』 第1巻第3…

Enchiridion 19 チョーサー

ジェフリー・チョーサー 1328-1400 ※ また一人のオックスフォードの学僧がおりました。 もう長い間、論理学に身を入れておりました。 乗っている馬は熊手のように瘠せていました。 彼自身だってけっして太ってはいなくって、それどころか、むしろ瘠せこけて…

Enchiridion 18 ドメニコ・マンチーニ

ドメニコ・マンチーニ 1434以前-1494x1514 空なるは 農夫の種まき 刈り入れ時を 逸すれば。 空なるは 大将の陣立て 刃交えず 勝利もせねば。 誉むべきは 徳ある行い 知言も時を得 益多く。 なれど今 直き知言 吐けれども 無為の輩が 誉授かる。 学識深き 賢…

Enchiridion 17 ペトラルカ

フランチェスコ・ペトラルカ 1304-1374 書物は、われわれを心底から楽しませてくれ、対話し、助言し、あるいはいきいきとした深い親密さをもってわれわれと結ばれあうのです。しかも書物は、それぞれが読者の心にはいりこむばかりか、ほかの書物の名前をも忍…

読む人のアウラ

昼過ぎから「林哲夫 読む人スケッチ展」を見に、深川資料館通り商店街のカフェ&ギャラリー「深川いっぷく」へ行く。おでこを怪我したピーマン星人氏が目印。 日常風景から、おっちゃん・にいちゃん・ねえちゃんたち(おばちゃんいたかな?)が、何かを読ん…

Enchiridion 16 リチャード・ド・ベリー

リチャード・ド・ベリー 1287-1345 書物の中で、われわれは遠い過去の故人の生きた姿に出会い、また将来を予見する。書物の中で、戦争にかかわる諸事は整理され、また平和の法も書物から生まれる。もし神が書物という救いのすべを被造物に与えなかったなら、…

Enchiridion 15 ペルシアの格言 その2

ペルシアの格言 彼らはその誉れ最も高き賢者に向かって尋ねた。如何にしてそのような知の高みにまで至ったのか、と。賢者こたえて曰く、「己の未だ知らぬことを、何でも躊躇わずに問うていったのである。汝らも知らぬことがあれば何でも問うがよい。その僅か…

Enchiridion 14 インドの格言

インドの格言 行い正しい人の口から出る言葉は、 滑りやすい場所での杖のようなものである。 〔『ティルックラル―古代タミルの箴言集』 第2篇第42章415、高橋孝信訳、平凡社(東洋文庫660)、1999年、76頁〕※ Alexander Ireland (ed.), The Book-Lover's Enc…

Enchiridion 13 ペルシアの格言

ペルシアの格言 賢者は愚者を見分けることができる。彼もまたかつて愚者であったから。だが愚者は賢者を見分けることができない。いまだかつて賢者であったためしがないのだから。※ Alexander Ireland (ed.), The Book-Lover's Enchiridion, 5th ed., London…

Enchiridion 12 パウロ

パウロ A.D.65 かつて書かれたものはみな、われらを教え導くためのもの (ロマ15:4)みなともに学び、みなともに励まされるように (1コリ14:31) Alexander Ireland (ed.), The Book-Lover's Enchiridion, 5th ed., London, Simpkin, Marshall & Co., 1888,…

Enchiridion 11 小プリニウス

小プリニウス A.D.61-105以後※ 叔父プリニウスは常々こう言っていた。「どこも役に立たないほど駄目な本などない」と。 『書簡集』 第3巻4 よく言われるように、多読ではなく精読をすべきでなのである。 同上 第7巻9 Alexander Ireland (ed.), The Book-Love…

Enchiridion 10 クインティリアヌス

クインティリアヌス A.D.42-115※ 〔判断力を鍛えるにあたり、弁論を耳から聴くという方法に比べて〕読書という方法では、偏った判断に陥らずにすみ、激しい弁舌で煙に巻かれることもなく、確かめたいとき、記憶に留めたいときに同じ箇所を何度でも読み返すこ…

Enchiridion 9 アウルス・ゲッリウス

アウルス・ゲッリウス A.D.117頃-180※ 若者の人品は、至言によって矯められるよりもむしろ、誤用悪用された言葉によって損われることの方が多い。『アッティカの夜』12.2 Alexander Ireland (ed.), The Book-Lover's Enchiridion, 5th ed., London, Simpkin,…