冷泉家の秘籍

東京都美術館「冷泉家 王朝の和歌守(うたもり)展」に行く。藤原俊成・定家を祖に持つ冷泉家によって、800年にわたり守り伝えられてきた和歌の典籍類が一挙公開されている。今日は本来休館日だが、企画展ごとに設けられる「障害がある方々の特別鑑賞会」で、障害者とその付添いを無料で入れてくれる(要申込み)。職場の利用者である視覚障害の方と回る。盲導犬のナサ(NASA)氏も一緒である。
土日にこのての企画展に行くと、混んでいてとてもゆっくりじっくりとは回れないのだが、さすがに今日は空いている。入口で、今回は音声ガイドの出来が非常にいいのでぜひ、と薦められたので二人とも借りる。元NHK加賀美幸子アナのナレーションに加え、現当主夫人・冷泉貴実子氏のコメント・和歌の朗詠も収録されている。なるほどこれは聴きごたえがある。
定家筆の国宝『後撰和歌集』を見ていたら、ボランティアスタッフが寄ってきて解説してくれる。定家の特徴ある筆跡、それが「定家様」として一流派を成したことについて。そして何やら取り出したかと思ったら、なんと立体コピーした定家の筆跡であった。視覚障害者に触らせてその丸っこい特徴を実感してもらおうという工夫。同伴者は中途失明の方なので、十分伝わったようである。なかなかのグッドアイデア
見える者としては、装飾本のコーナーが興味ふかかった。古典籍の知識がないので、中世の写本といえば白い和紙に墨の、白黒の世界だと思っていたが、さにあらず。濃淡さまざまな黄・藍・茶・紫の料紙があり、鳥や折枝を下絵に描いてあるものもある。さらに、雲母で唐草文様を刷り込んだもの、金銀の砂子を散らしたもの、飛雲という、墨流しのような模様を漉き込んだものもあって、実に雅やか。
特に、色の異なる二枚の料紙をわざわざ破って貼りあわせた「破り継ぎ」の技法などは、今見ても新鮮。

こうした美麗写本は、平安時代から鎌倉時代にかけて製作されたという。
今回は典籍ばかりの展示ということで、視覚障害の方にも楽しんでもらえるか最初は不安だったが、いろいろな発見があってよかったのではないかと思う。当展の企画担当者氏による解説も聞けて、充実した2時間であった。