2012-01-01から1年間の記事一覧

高祖保の牛窓

10月8日、高祖保の生誕地・牛窓を訪ねた。 思い立ったのは前日のこと。その日こんな記事を読んだのがきっかけだった。「牛窓の詩人・高祖保知って」(読売新聞 YOMIURI ONLINE版、10月6日付)生家跡の史料館に高祖保コーナーができ、7日より公開されるという…

厦門採訪 鼓浪嶼篇

鼓浪嶼(コロンス島)を歩く。 厦門島よりフェリーで数分の距離にある、かつて共同租界だった小島である。 いまも租界時代に建てられた洋館や、華僑の古い別荘が数多く残る。 旧日本領事館、1898年築。「重点歴史風貌建築」のプレートが掲げられているが、 …

厦門採訪 老街篇

1920年当時の厦門では、五四運動や日貨排斥運動の影響で反日感情が高まっていた。 ある夜、佐藤春夫は宿で寝床に豚の背骨を入れられるという目にあう。 これはどうもボオイか何かの悪戯に相違ない。料理場の近くで犬がしやぶりさらしてあつた奴を、私が日本…

厦門採訪 集美篇

古い旅行記を読むのは、楽しい。 かつてあった、今もあるかもしれない街並や風俗のなかを、著者とともに巡る。それは、居乍らにしてできる時間旅行。読書ならではの楽しみである。妄想逞しゅうすれば、旅愁さえ味わえよう。例えば、佐藤春夫 『南方紀行 厦門…

詩人の名刺

某目録より注文した『菽麥集』(湯川弘文社、1944年)に付いていた田中冬二の名刺。 耳付き和紙に刷られているのを見て、おやと思った。 高祖保の名刺とそっくりなのだ。これは川上澄生に献呈された『雪』(文藝汎論社、1942年)に付いていたもの。青いイン…

詩人の形見分け

帰省のついでという名目で、下鴨納涼古本まつりへ。 品川でのぞみに乗ったのだが、朝も早よから大層な混みよう。指定席を取っておかなかったばかりに、京都まで立ちんぼする羽目に。 ふらふらと糺の森にたどり着いたのは9時45分ごろのこと。案内図を見ると、…

天野忠つながり

京王新宿の大古書市初日に買ったもの。 倉橋顕吉『詩集 みぞれふる』編集発行・倉橋志郎、1981年 1000円也 『山前實治全詩集』文童社、1981年 3000円也 河野仁昭『小庭記』洛西書院、2007年 500円也 天野忠『草のそよぎ』編集工房ノア、1996年 1000円也 以上…

老蘇村のモダンボーイ

抒情詩社編『一九二七年詩集 昭和二年版』 抒情詩社、1927年 趣味展にて。1500円也。『抒情詩』同人を中心とする170人の詞華集。 井上多喜三郎の「印象詩派詩篇」6篇が収録されている。 時に多喜さん25歳。初期に属する詩業である。 噴水絹糸のやうにさみし…

頭の中で回すコマ

荒川洋治 『詩とことば』 岩波現代文庫、2012年 文庫化にあたり、6編の新稿が加えられている。そのうちの1編「独楽」は、北海道立文学館に膨大な詩書のコレクションを寄贈した高橋留治についてのエッセイ。表題は高橋氏の「頭の中で回すコマ」ということばに…

詩の旅、旅の詩

伊藤信吉 『紀行 ふるさとの詩』 講談社、1977年 松屋浅草の古本まつりにて。300円也。 北海道から沖縄まで、著者が心惹かれる詩と詩人にまつわる地をめぐった旅の記憶。「詩人の声がいざなう信濃の国」という章で、高祖保「旅の手帖」の一部が引かれている。…

多喜さんの京都

連休中のこと。上洛の機会を利用して、「多喜さん」こと井上多喜三郎ゆかりの地を巡った。高祖保の詩友だった多喜さんは、戦後近江詩人会を結成して大野新ら後進の指導に尽力した湖国生え抜きの詩人。一方で、京都のコルボウ詩話会やそこから枝分かれして出…

古本はチョコレートの香り

先週末、リブロ池袋の古本まつりと書窓展で買ったもの。 『國民詩 第二輯』 中山省三郎編、第一書房、1943年 1050円也。高祖保の「旅の手帖」収録。この詩は、1942年の自筆詩集『信濃游草』*1を改題・改稿したもの。同年、友人の八幡城太郎と諏訪在の詩人・…

虚栄の市にて

「銀座 古書の市」で買ったもの。 『年刊日本プロレタリア創作集 1932年版』 日本プロレタリア作家同盟出版部、1932年 250円也。見返しに発売時のものと思しき三省堂のラベルが残っている。 1931年満州事変勃発、1933年小林多喜二虐殺、というおっかない時代…

蠹魚的台灣小旅行 台南篇

台北篇の続き。寒い季節に暑苦しい話を。 荒廃の美を求めて 9月6日、台北から台灣高鐵に乗り古都・台南へ。白亜の台南駅からタクシーで市の西郊・安平に向かう。 定番の安平古堡や安平樹屋にも行ったのだが、 この日のお目当ては、「禿頭港」。 といっても、…

保忌

高祖保よ、私は君の死を未だ信じたくはないのだ。私は、ビルマで生きつづける君を信じる。いつの日か、ビルマへ行くことが出来たなら、必らずや、君は、美しい老年をまとつて、やさしく私の手をとつてくれることと信じてゐる。岩佐東一郎 「高祖保を憶ふ」『…