2014-01-01から1年間の記事一覧

高祖保の金沢 中篇

8月3日、昼ごろ武蔵ヶ辻の「めいてつ・エムザ」へ向かう。高祖保はこのあたりでこんな歌を詠んでいる。 三越の六階にみる卯辰山樹々にふきこもる風のあしみゆ(金沢三越) 『香蘭』9巻7号(昭和6年7月) 当時、武蔵ヶ辻には三越金沢店があった。昭和5年に開…

高祖保の金沢 前篇

8月2日から4日まで金沢に滞在。少し早い夏休みの小旅行とて高祖保ゆかりの地を巡る。 昭和5年、満20歳になった高祖保は、当時の兵役法の定めにより徴兵され、同年12月1日、金沢の山砲兵第九聯隊に第一中隊幹部候補生として入営、翌昭和6年11月30日まで在営し…

察しのよすぎたマダム

「――空気に水と青葉の匂ひのする雲の美しい」夏の朝なのである。 私は裏畑に自ら培つて穫た三本の胡瓜をもいで、その特意さを、生垣ごしの隣家のマダムに誇示して云つた。 「奥サン、コノ胡瓜見事ダト思ヒマセンカ」 しかしマダムはその時、一個の美的観賞者…

ブレーンドンク要塞

1月4日、ブリュッセルとアントワープの中間、ウィッレブルークにあるブレーンドンク要塞を訪れたのだった。19世紀中頃から20世紀はじめにかけてアントワープ防衛のために築かれた要塞群の一つで、ブレーンドンクは1909年着工。先の大戦でナチス・ドイツの強…

ブリュッセル最高裁判所

昨年の大晦日、ブリュッセル滞在2日目のこと。ジュ・ド・バル広場の蚤の市をひと巡りしたあと、そこからほど近い最高裁判所を訪ねたのだった。丘の上に建つそのドーム屋根はかなり離れた街中からも目について、ひときわ存在感を放っていた。 裁判所などとい…

『雪』の異装

某古書目録より高祖保の第三詩集『雪』(文藝汎論社、1942年5月4日)を入手されたMさんが、並製の異装本だったと知らせてくださった。外村彰『念ふ鳥 詩人高祖保』277頁に『雪』の異装本が1点掲載されているが、それとも異なるという。 ありがたいことに譲っ…

京都点景

高祖保「滞洛小記」(『門』第3輯、昭和4年)より「一、京都点景」。 鴨川べりに敷いた淡彩グリインの天然絨氈 坂をのぼるインクライン砂積船 天と見えぬ抛物線を描く 比叡・大文字・花頂・音羽・衣笠 岡崎公園大礼館まへの赤ら顔のとほうもない大鳥井 都会…

輕井澤ニユーグランドロツヂ

『高祖保随筆集 庭柯のうぐひす』(龜鳴屋、2014年)の圧巻、「軽井沢より」。 昭和16年7月20日から8月26日までの軽井沢滞在記である。このころの高祖保は、7月15日に第2詩集『禽のゐる五分間写生』を井上多喜三郎の月曜発行所から上梓したばかり。『高祖保…

ネットの青空翔ける「念ふ鳥」

3月16日、高祖保の第一詩集『希臘十字』(1933年)が青空文庫で公開された。 作品リスト:http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person1774.html第三詩集『雪』(1942年)、未刊詩集『独楽』も校了しているので、これらも遠からず公開されるだろう。底本はい…

ブリュッセル古本風景

ギャルリー・ボルティエ 古本屋の集まるパッサージュ。 ジュ・ド・バル広場の蚤の市 広場に面した古本屋 路傍にて

保忌

亡きあなたにあてて、このたよりを記しておりますと、頬につたう冷たいものを、おさえるすべもないほどで、このふかいかなしみばかりは、ついに癒されることなく、わたくしのなかで、もはや永遠なものにかわつていつたようです。あのいまわしい戦争のために…