京都点景

高祖保「滞洛小記」(『門』第3輯、昭和4年)より「一、京都点景」。

鴨川べりに敷いた淡彩グリインの天然絨氈

坂をのぼるインクライン砂積船

天と見えぬ抛物線を描く 比叡・大文字・花頂・音羽・衣笠

岡崎公園大礼館まへの赤ら顔のとほうもない大鳥井

都会の塵埃を造つてゐる人と車の織物図 七条・四条・丸太町橋

お上りさんの忙しい心を攪き乱す花どきのおきやんな空

空に無言の雲が描いては消す 気まぐれなパントマイム

――その下の宿の二階に
ひとり松葉煙草のやうにくすぶつてゐる男、私。


『高祖保随筆集 庭柯のうぐひす』龜鳴屋、2014年、102-103頁