保忌

亡きあなたにあてて、このたよりを記しておりますと、頬につたう冷たいものを、おさえるすべもないほどで、このふかいかなしみばかりは、ついに癒されることなく、わたくしのなかで、もはや永遠なものにかわつていつたようです。あのいまわしい戦争のために、遠い南のはてで「雪」のようにきえた高雅のひと。玲瓏にして精緻をきわめた詩神と、栄光の未来を、――いや、その何にもまして、あのおおらかな人格をうしなつたことが、わたくしの生涯に、どれほどむなしいおもいを植えつけたことでもありましよう。


前田静秋「「雪」の詩人にあてて記したおろかなる弟子のあとがき」
 『詩集 のくちゆるぬ』プレス・ビブリオマーヌ、1959年、60-61頁