頭の中で回すコマ

文庫化にあたり、6編の新稿が加えられている。

そのうちの1編「独楽」は、北海道立文学館に膨大な詩書のコレクションを寄贈した高橋留治についてのエッセイ。

表題は高橋氏の「頭の中で回すコマ」ということばに由来する。職業生活だけではどこか満ち足りなかった氏は、この「コマ」を求めるうちに詩と出会い、詩人が精魂を注いだ初版本の収集に打ち込むことになる。

「頭の中で回すコマ」、荒川氏もいいことばだと書いているが、それを求める気持ちは、分かる気がする。そして私なんぞは、高祖保の詩「独楽」をおもうのである。

寂ねんと
孤り 廻り澄むもの

実はこのエッセイの表題を見たとき、高祖保のことが書かれているかもと、ちょっと期待したのだった。荒川氏はかつて現代詩文庫『高祖保詩集』の解説を書いていたし、そこで高祖の「独楽」を取り上げていたから。
読んでみるとコマちがいだったのだが、高橋氏の膨大なコレクションからほんの一部を紹介しているくだりに岩谷書店版の『高祖保詩集』が、そしてそのあとほんの数行だが高祖保についての言及があった。

公開されている北海道立文学館の高橋留治文庫の目録を見てみると、上記の他に、『希臘十字』『雪』『夜のひきあけ』もある。

高祖保の詩集も、高橋氏の「頭の中で回すコマ」だったわけだ。


詩とことば (岩波現代文庫)

詩とことば (岩波現代文庫)