高祖保没後70年に

2015年は、戦後70年にして詩人・高祖保没後70年という、記念すべき年であった。(高祖は1945年1月8日ビルマにて戦病死)
詩人に関する今年の主なイベントをまとめておく。

『高祖保集 詩歌句篇』の出版

書簡集・評伝・随筆集と、出版により詩人の顕彰を続けてこられた金沢の龜鳴屋より、ついに詩歌句集が上梓された。

編者は高祖保研究の第一人者・外村彰先生(呉工業高等専門学校教授)なので、現在一般に入手できる高祖の詩作品のなかでは、最も信頼できるテクストとなっている。作中の特殊な旧字まで再現するという凝りよう。
詩人の死により未刊詩集となった『独楽』については、従来の岩谷書店版や現代詩文庫版の選集所収のものとは異なり、残された定稿からの復元版である。生前の詩人の意図が可能な限り反映された形で現代に甦った。
また、詩のみならず短歌や俳句も数多く収録されており、高祖保のポエジイを俯瞰できる一冊となっている。
一般の書店には並ばないが、版元から直接購入できる。高祖保の作品に興味を持ったら、まず本書を入手すべし。
龜鳴屋HP http://www.spacelan.ne.jp/~kamenaku/

記念講演会(9月13日)

高祖保生誕の地・牛窓に近い瀬戸内市中央公民館にて、外村彰先生による講演会が開催された。
講演の前には、高祖が作詞した童謡「蜜柑の実」、および高祖の詩から合唱曲に仕立てられた「ふらここ」の演奏が、西大寺混声合唱団により披露された。
また会場には、高祖保が愛用した品々(ペン立て・インク壺・ペーパーナイフ・灰皿)や自筆原稿、金沢入営時代の日誌も展示された。
当日は詩人のご長男・宮部修氏も来場されており、私などはお会いできて感無量であった。
講演会の録画が公開されている。高祖保について興味を持ったら、まずこちらを視聴すべし。

「蜜柑の実」ふたたび

高祖保が作詞した童謡「蜜柑の実」(作曲・橋本国彦)は、昭和19年11月28日の昼に一度放送されたきりで、NHKにも音源は残っていない。
牛窓の私設資料館「なかなか庵」を拠点に高祖の顕彰活動を続けておられる清須浩光さんは、残された楽譜と歌詞を手掛かりに、自ら団長を務める西大寺混声合唱団の歌声で現代に甦らせておられる。(上記録画でも聴ける。牛窓および「なかなか庵」訪問記は、こちら
だが今年、オリジナルの放送の記憶を受け継ぐ方が現れたという情報を、清須さんからいただいた。
12月13日放送のNHK「小さな旅」*1に出演されたその女性は、蜜柑の一房々々を家族に喩えたこの歌を、戦中母上がよく泣きながら口ずさんでいたのを聴いて今でも覚えておられた。戦中の思い出とともに歌われたそのメロディーは、清須さんの合唱団が楽譜をもとに再現されたバージョンとほとんど変わらないものだった。
戦争の記憶とともに高祖の歌が人の心に生き続けてきたことには複雑なものを覚える。ともあれ、NHKから再びこのようなかたちで放送されたのは奇跡的で、感慨深い。
戦後70年、高祖保没後70年の掉尾を飾る出来事だった。