2015年の10冊

古書の10冊

※すべて詩集。

柏木俊三『栖居』カイエ社、1934年

雲が破れる。人の中に日射しが砂地を作る。人を殺すために。此の世の秘密を護るために。

(「冬」より)


荒木二三『蝶』私家版、1934年


※装画:天野大虹

たうとう探しあてた幸福みたやうなものを折れた忠義な万年筆のてつぺんに突き刺す。

(「幸福」より)


中川いつじ『天えの道』私家版、1948年

兵隊で死にそこねた私は、たゞ呆んやりと帰つてきた。敗戦国のみじめさは兵隊で苦労した御蔭で父母ほどには感じなかつたが、口に糊するための人との交際ほどいやなものはない。こんな空しさを詩によつて埋める事を覚えた。こんなとき「ラ」のおつさんを知つた、オアシスのように。そうして「ラリルレロ」えよることで一層詩を愛することができるようになつた。

(「あとがき」より)

※「ラ」のおっさんとは、長浜の詩人・武田豊のこと。「ラリルレロ」は武田が営んでいた古本屋。


足立巻一『バカらしい旅行』理論社、1971年

ああ、なんとバカらしい旅行よ
と口ずさみながら
わたしはまた道をあるいている。

(「断崖の道」より)


静文夫『旅行者』天秤発行所、1972年

古ぼけた地図の上で
俺は緑の爽やかさをさがした

(「旅行者 3」より)


丹野正『雨は両頬に』編集工房しぶや、1979年

雨だれの音階とそれがつくる水たまりが
わたしの外国であった日がある
すこしおとなになってからは
雨がさのしたにいることがすでに恋であった

(「外国」より)


水納あきら『たった一言のためのMENU』おもろ書院、1988年

起きなければとは思うのだが
醒める体がない
醒めなければと思うのだが
起きる両眼がない

(「だが」より)


花田英三『風葬墓からの眺め』ニライ社、1994年

与那国の馬は
舗装された道路へ出てきて
うんこをする
海を見ながら

(「与那国島」)


瀬沼孝彰『凍えた耳』ふらんす堂、1996年

(大切なことは
(寒い時にどう歩くかではないでしょうか

(「ホタル」より)


林堂一『ダゲスタン』湯川書房、1997年

ふと
遠い旅だなと思う
どこを出てどこへ帰るのかも忘じはて
途中で別れた人の記憶もおぼろに
ぬぎかけた上着
ぼくは片腕をとられたままである

(「旅」より)


新刊の10冊

アンドルー・ペティグリー『印刷という革命 ルネサンスの本と日常生活』

北川朱実『三度のめしより』

『高祖保集 詩歌句篇』外村彰編、龜鳴屋、2015年

http://www.spacelan.ne.jp/~kamenaku/

『ぽかん 05』ぽかん編集室、2015年

http://pokan00.blogspot.jp/2015/05/5.html