Enchiridion 19 チョーサー

ジェフリー・チョーサー 1328-1400 ※

また一人のオックスフォードの学僧がおりました。
もう長い間、論理学に身を入れておりました。
乗っている馬は熊手のように瘠せていました。
彼自身だってけっして太ってはいなくって、それどころか、むしろ瘠せこけていて、そのためいっそう深刻そうに見えたと申し上げてよいでしょう。
いちばん外がわに羽織った短い上衣は、すっかりすり切れて糸が見えるくらいでした。
というのも、この学僧はまだ寺禄を受ける身分ではありませんでしたし、それかといって世間に職を求めるほど世渡り上手ではなかったからでした。
彼は豪華な衣服や胡弓や派手な絃楽器などより、黒や赤の装丁をしたアリストテレスや、その哲学の本を二十巻、枕もとにおいておくほうを好んだからでした。
だが、彼は哲学者であったのに、どうしたものか金櫃に金はほとんどないといったありさまでした。
友だちから手に入れることのできた金は全部、本や学問のために使いました。

カンタベリー物語』 序歌
〔『完訳カンタベリー物語(上)』 桝井迪夫訳、岩波文庫、1995年、29-30頁〕


この私 浅学非才の 身なれども
読書耽溺 けらくの極み
書物を信じ 大いに頼み
全霊傾け 崇拝するもの。
さればわが目を 書物から
逸らすに足るもの 他にやあるべき
祝祭日は 是非もなけれど。
とはいえ実に 皐月来たれば
鳥の歌声 わが耳充つる
草花芽吹き こうなれば
わが書わが信 いざさらば!

『善女列伝』 序歌


なぜなら、古い畑から、年々歳々、
新しい小麦が生じる、と人の言うように、
古い書物から、きっと、
新しい知識が生まれ、人々はそれを学ぶのだから。

『鳥の議会』
〔『チョーサー初期夢物語詩と教訓詩』 笹本長敬訳、大阪教育図書、1998年、266頁〕


Alexander Ireland (ed.), The Book-Lover's Enchiridion, 5th ed., London, Simpkin, Marshall & Co., 1888, pp.12-13.

岩波文庫の解説によると、今日では1343?-1400。