リーヴル・オブジェ

浦和に来たついでに、うらわ美術館「オブジェの方へ―変貌する「本」の世界」を見る。未来派から現代作家までの、「本」をテーマとした作品の展示会。1時間半くらいいたが、客はほぼ自分ひとりという盛況ぶり。以下、個人的に面白いと思ったもの。

イー・ジヒョン 「007SE0711(聖書)」

針先で聖書の全頁を細かくほじくり出した作品。その労を多としたい。

ヴェロニカ・シェパス 「ズボン販売員の勝利」

ページがすべて透明なポリエチレンシート、カバーも透明という本。ページ片面に1行ずつ印刷されていて、1ページ分の行数がこの本の総葉数である。だから、この本は開かなくても本文すべてが透けて見える。ページを繰るごとに1行ずつ消えていくというしかけ。

福田尚代 「翼あるもの 『ダロウェイ夫人』」

全ページを二つ折りにした単行本を、開いて立てた作品。表紙が翼のように見える。1ページだけ1行読めるように折ってある。「あの人ったら昔のままでしたわ」 文庫本バージョン 「翼あるもの 『可愛いエミリー』」もある。

福田尚代 「言葉―『戯れに恋はすまじ』」

昔の岩波文庫にかかっていたグラシン紙と赤帯の組み合わせだけを立てた作品。茶色くなったグラシン紙には、うっすらと表紙の模様とタイトルが写っている。

福田尚代 刺繍シリーズ:『ナイン・ストーリーズ

「愛らしき口もと目は緑」の本文端に緑の刺繍が施されている。

福田尚代 「佇む人たち」

小口を彫った文庫本数十冊を、羅漢に見立てて並べた作品。マルクス・アウレリウス『自省録』(岩波文庫)・『古今和歌集』(講談社学術文庫)・三島由紀夫『宴のあと』(新潮文庫)・『更級日記』(岩波文庫)・幸田露伴五重塔』(岩波文庫)・夏目漱石『行人』(岩波文庫)など、そうそうたる顔ぶれが並ぶ中に、一人毛色の違う羅漢=バローズ『火星の幻兵団』(創元推理文庫)がおわしますのは、福田氏の好みか。

中村宏 「機甲本 Ιχαρος(イカルス)」

稲垣足穂イカルス」の純銅版。作者曰く、「文・稲垣足穂、設計画工・中村宏、製版・広橋製版印刷株式会社、金工・銅亀、制作出版・呪物研究所、発行一九七三年九月一日、B5版、総頁一四、総束八〇ミリ、総重量二三キログラム、全頁銅凸文及び銅凸画、銅リベット止め。特注三ミリ厚銅板製函入り。限定一三台。超弩級男性巨編、総純銅製書物、呪物へ転倒した書物、本の機甲化成る。」 設計図も展示されている。いくらだったか知らないが、さっぱり売れなかったという。

西村陽平 「本を焼く」シリーズ

1000度以上で焼かれると、雑誌『ELLE』はミルフィーユのようになることが分かる。

遠藤利克 「敷物―焼かれた言葉」

燃やしてタールを染み込ませた2000冊の本を敷き詰めた作品。同展示会のポスターに使われている。なんか焦げ臭いと思っていたら、これだったのか。世界の終わりを見た気がした。


ほか、未来派のブリキでできた本や、表紙にラバーのおっぱいがついたシュルレアリスム展カタログ、デュシャンフルクサス関係の作品などもあったが、日本人作家のものの方が印象的だった。
図録はまだできておらず、12月初旬販売予定とのこと。予約は受け付けている。