死都ブリュージュ

2014年の正月休暇、2日ほどブリュージュに滞在したのだった。
目的はただ一つ、『死都ブリュージュ』に会うこと。ローデンバックが恰もひとりの人物のように描き、“廃位された王妃”と呼んだブリュージュに。

ほとんどひとけのない街路、妖しげな存在感を放つ巨塔、不穏な静寂をたたえた運河…。ローデンバックの『死都ブリュージュ』(Georges Rodenbach, Bruges-la-Morte, 1892)には、そんな灰色の憂愁にみちた写真が35葉挿入されている。寡男の悲恋物語より、これら写真の方に目を奪われた読書子も多いのではなかろうか。

岩波文庫には、原書初版で使われた網目写真版(similigravure)35葉がすべて収載されている。本書を片手に、ブリュージュという未亡人の憂い顔を、寒空の下ひとつひとつ訪ね歩いたのだった。

※以下、原書初版の写真35葉と今日の風景を収載順に並べる(前者のみの場合もある)。初版の写真は、Wikimedia Commonsより入手。見出し括弧内の数字は、章番号と岩波文庫版の収載頁。なお、原書初版のスキャン画像がInternet Archiveで公開されている。

1. 運河とベギン会修道院入口に架かる橋 (p.8)



地図

2. 運河とベギン会修道院入口に架かる橋 (1, p.13)

写真1に類似。もう少し近づくと写真17になる。

3. ロゼール河岸とベフロワ(鐘楼) (1, p.15)



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4. 緑河岸 (2, p.21)



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5. サン・ソヴール(救世主)聖堂 (2, p.25)

ユーグがノートル・ダムに入っていく場面で挿入されており、文脈と写真は一致していない。


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6. ロゼール河岸とノートル・ダム (3, p.33)


7. グラン・プラスとベフロワ (3, p.37)



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8. 緑河岸 (3, p.41)


Googleストリートビュー

9. 緑河岸 (4, p.47)



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10. 十字架門と風車 (5, p.55)

ユーグがジャーヌのために借りた、“青草と水車の郊外へと通じる散歩道にそって建っていた”家周辺のイメージか。


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11. ミンネワーテル(愛の湖)へ続く運河とノートル・ダム (5, p.59)



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12. 街路とサン・ソヴール聖堂 (5, p.61)



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13. 自由ブリュージュ館附近の河岸 (6, p.65)



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14. 街路とベフロワ (6, p.67)



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15. 緑河岸 (7, p.71)



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16. ミンネワーテルとノートル・ダム (7, p.79)



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17. ベギン会修道院入口に架かる橋 (8, p.85)

クノップフが「ブリュージュの思い出―ベギン会修道院入口」(1904年)に描いている。

18. ベギン会修道院 (8, p.87)

ブリュージュのベギン会修道院とおもいきや、この絵はフランドルの画家Louis Tytgadtの作品、Le Petit Béguinage de Gand (1886)。つまりブリュージュではなく、ゲント(ガン)のベギン会小修道院を描いたもの。詳しくは、こちら

19. サン・ジャン病院(聖ヨハネ施療院) (8, p.97)



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20. 緑河岸 (9, p.103)



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21. サン・サン(聖血)礼拝堂 (9, p.105)



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22. 街路とベフロワ (10, p.111)



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23. ゲント門 (10, p.113)



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24. 西部郊外からの眺望 (11, p.117)

塔は左から、ベフロワ、ノートル・ダム、サン・ソヴール

25. サン・ソヴール聖堂の身廊 (11, p.119)

26. 聖ウルスラの聖遺物匣 (11, p.123)

現在も聖ヨハネ施療院のメムリンク美術館で観ることができる。

27. ヤン・ファン・エイク広場 (12, p.133)



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28. 自由ブリュージュ館附近の河岸 (12, p.135)

写真13に類似。

29. 緑河岸 (12, p.139)

写真20に類似。

30. ミンネワーテルとノートル・ダム (12, p.141)

写真16に類似。

31. エーゼル(ロバ)門 (13, p.147)


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32. ヤン・ファン・エイク広場 (14, p.151)

写真27に類似。

33. 市庁舎とサン・サン礼拝堂 (15, p.163)



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34. サン・サン礼拝堂の聖遺物匣 (15, p.169)

35. ロゼール河岸とベフロワ(鐘楼) (15, p.175)

写真3に類似。

おまけ:記念碑

ゲント西部にある聖エリザベート・ベギン会修道院前の公園に、ローデンバックと『死都ブリュージュ』を記念したモニュメントがある。彫像はGeorge Minneの作で、1903年に設置された。



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