Enchiridion 17 ペトラルカ

フランチェスコ・ペトラルカ 1304-1374

書物は、われわれを心底から楽しませてくれ、対話し、助言し、あるいはいきいきとした深い親密さをもってわれわれと結ばれあうのです。しかも書物は、それぞれが読者の心にはいりこむばかりか、ほかの書物の名前をも忍びこませて、相互に欲望をかきたてあいます。
『親近書簡集』 第3巻18 ジョヴァンニ・デリンチーザ宛書簡
〔『ペトラルカ ルネサンス書簡集』 近藤恒一編訳、岩波文庫、1989年、159頁〕


歓喜: 私は研究に資する書物を所持している。
理性: ならば、それらが障害とならぬよう心せよ。大軍がときに勝利の妨げとなるように、あまりに多くの書物は研究の妨げになることが多い。過剰からは、思いもよらぬ欠乏が生じる。だが、現に群書を蔵しているのなら、捨てるには及ばぬが秘蔵しておくように。そして最良の書のみを用い、時を得て読まれれば有用な書が、時機を失して繙かれ研究を邪魔せぬよう気をつけよ。
『順逆両境の対処法について』 第1巻43 「群書」


ペトラルカを訪問した友人たちが長尻を詫びて言った。
「私たちにはとてもあなたの真似はできない。あなたの送っている生活は人の本性に反しているから。冬は梟の如く炉辺に佇み、夏は原野に日々遊ぶなんて。」
ペトラルカは、そんな意見を一笑に付して言った。
「こういう者たちにとっては、世俗の快楽こそが至高のものであって、それを捨てるなどという考えにはとても耐えられないだろう。だが私には同好の友がいる。しかもあらゆる時代、あらゆる国々に。彼らは元老院でも原野でも名を成したし、その学識ゆえに高い尊敬も受けてきた。会うのは簡単だ。いつでもこちらを待っていてくれるのだから。つきあいを許すも止めるも、こちらの望むがままだ。気遣い無用で、どんな問いかけにも即座に答えてくれる。過去の出来事を語ってくれる友がいる。自然の神秘を解き明かしてくれる友もいる。如何に生くべきか指南もしてくれるし、死に方さえ見せてくれる。不安を呵呵吹き飛ばし心を晴らしてくれるし、不屈の精神も植え付けてくれる。欲望抑制法の師がいる。自足生活の師もいる。要するに、彼らがありとあらゆる学芸の道を示してくれるおかげで、私はいかなる窮状に陥っても、それらの知識に安心して頼れるのである。こうした友情の見返りとして、彼らはただ、わが陋屋の一隅に自分たちが静かに一息つける心地よき空間をしつらえ、そこに収めてほしいと願うばかりである。わが友の喜びとするところは、巷間の喧騒ではなく隠棲の静謐なのだから。」※


Alexander Ireland (ed.), The Book-Lover's Enchiridion, 5th ed., London, Simpkin, Marshall & Co., 1888, pp.9-11.

※出典不詳。