Enchiridion 26-2 モンテーニュ その2

袂に薬をもっている病人は同情に値しない。このきわめて真実な格言を実際に経験し実践するところに私が読書から得ている成果のすべてがある。私は実際には、書物をあまり利用しない。その点では書物を知らない人々とほとんど同じである。私は書物を、守銭奴がその財産を享楽するように享楽する。いつでも好きなときに使えることを知っているからである。私の心はこの所有権だけで満ち足りている。私は平時にも戦時にも書物を持たずに旅行することはない。だが、何日も、何ヵ月も読まずに過ごす。「いまに読もう」とか、「明日」とか、「気が向いたら」とか言っているうちに時が過ぎてゆく。だが、べつに気にならない。実際、書物が私のそばにあって、私の好きなときに楽しみを与えてくれると考えると、そして、書物が私の人生にどんなに救いになるかを思い知ると、どれほどの安らぎと寛ぎを覚えるかは言葉では言い尽くせない。これこそはこの人生の旅に私が見出した最良の備えである。だから、知性のある人で、これをもたない人をたいへん気の毒に思う。わたしは読書の楽しみが私からなくなることがないことを知っているから、他の楽しみは、どんな些細なものでもまずそのほうから先に受け入れる。

『エセー』 第3巻第3章「三種の交わりについて」
〔『エセー (五)』 原二郎訳、岩波文庫、1967年、76頁〕


Alexander Ireland (ed.), The Book-Lover's Enchiridion, 5th ed., London, Simpkin, Marshall & Co., 1888, pp.24-25.