Enchiridion 31-1 フランシス・ベーコン その1

ベーコン卿 1561-1626

学問は〔思考の〕楽しみと〔弁論の〕飾りと〔仕事を処理する〕能力のために役立つ。楽しみのためになる学問の主な効用は、私生活と隠退時にある。飾りのためになる主な効用は、会話にある。そうして能力のためになる主な効用は、仕事についての判断と処理にある。・・・反論し論破するために読むな。信じて丸呑みするためにも読むな。話題や論題を見つけるためにも読むな。しかし、熟考し熟慮するため読むがよい。ある書物はちょっと味わってみるべきであり、他の書物は呑み込むべきであり、少しばかりの書物がよく噛んで消化すべきものである。すなわち、ある書物はほんの一部だけ読むべきであり、他の書物は読むべきではあるが、念入りにしなくてよく、少しばかりの書物が隅々まで熱心に注意深く読むべきものである。※・・・読書は充実した人間を作り、会話は気がきく人間を、書くことは正確な人間を作る。それゆえ、ほとんど書かない人は、強い記憶をもつ必要があり、ほとんど会話しない人は、即座にきかす機転をもつ必要があり、ほとんど読まない人は、知らないことを知っているように見せる多くの才気をもつ必要がある。

「学問について」 『随想集』 1597年
〔『ベーコン随想集』 渡辺義雄訳、岩波文庫、1983年、218-219頁〕


Alexander Ireland (ed.), The Book-Lover's Enchiridion, 5th ed., London, Simpkin, Marshall & Co., 1888, pp.28-29.

※次の文が省略されている。

書物のなかには、自分に代わって読んでもらってよいものがあり、ほかの人に抜粋を作ってもらってよいものがある。しかし、それは余り重要でない議論やつまらない種類の書物に限るべきである。そのほかの摘要書は気のぬけた蒸留水のようなもので、味気ないものである。(渡辺訳)