高祖保

詩の旅、旅の詩

伊藤信吉 『紀行 ふるさとの詩』 講談社、1977年 松屋浅草の古本まつりにて。300円也。 北海道から沖縄まで、著者が心惹かれる詩と詩人にまつわる地をめぐった旅の記憶。「詩人の声がいざなう信濃の国」という章で、高祖保「旅の手帖」の一部が引かれている。…

多喜さんの京都

連休中のこと。上洛の機会を利用して、「多喜さん」こと井上多喜三郎ゆかりの地を巡った。高祖保の詩友だった多喜さんは、戦後近江詩人会を結成して大野新ら後進の指導に尽力した湖国生え抜きの詩人。一方で、京都のコルボウ詩話会やそこから枝分かれして出…

古本はチョコレートの香り

先週末、リブロ池袋の古本まつりと書窓展で買ったもの。 『國民詩 第二輯』 中山省三郎編、第一書房、1943年 1050円也。高祖保の「旅の手帖」収録。この詩は、1942年の自筆詩集『信濃游草』*1を改題・改稿したもの。同年、友人の八幡城太郎と諏訪在の詩人・…

保忌

高祖保よ、私は君の死を未だ信じたくはないのだ。私は、ビルマで生きつづける君を信じる。いつの日か、ビルマへ行くことが出来たなら、必らずや、君は、美しい老年をまとつて、やさしく私の手をとつてくれることと信じてゐる。岩佐東一郎 「高祖保を憶ふ」『…

高祖保と地方詩壇

東海詩人協会編 『東海詩集 第三輯 昭和三年版』 東文堂書店、1928年7月15日 第5回扶桑書房一人展にて。東海地方在住の詩人を中心とする団体の年刊詩集。 これに当時、彦根で浪人していた18歳の高祖保が散文詩2篇を寄稿している。 巻末の年表によると、高祖…

本の街にて

神田古本まつりで買ったもの。 詩の朗読研究会編 『詩の朗読講座 草原文庫2』 草原書房、1947年 「朗読詩集」の部に高祖保の「孟春」一篇が収録されている。本書は外村彰氏の「高祖保作品年表(一)」に記載がないので、ちょっとした発見。300円也。 尾崎一…

高祖保の検印

『雪』 文藝汎論社、1942年 架蔵本を見る限りでは、少なくとも2種類存在する。「宦南」 「玄澤」(?) 後者は判読にいまいち自信が持てないが、川上澄生宛献呈本の印である。神奈川近代文学館所蔵の木下杢太郎宛献呈本にもこれが使われている。献呈分と頒布分…

高祖保と『ひとで』

石原輝雄 『三條廣道辺り 戦前京都の詩人たち』 銀紙書房、2011年8月27日 マン・レイのレイヨグラフと俵青茅・天野隆一を繋ぐミッシング・リンクの探求記がすこぶるスリリング。ぐいぐい引き込まれたのだが、マン・レイの映画『ひとで』(L'Etoile de Mer 19…

『独楽』定稿閲覧記

高祖保の未刊詩集『独楽』の定稿が、彦根市立図書館にある。それが昨夏、詩人の遺族より同館に寄贈されたことを、2010年度日本近代文学会関西支部秋季大会における外村彰氏の発表要旨で知った。『独楽』が未刊に終わった経緯については、詩友の岩佐東一郎が…

糺の書の森にて

下鴨納涼古本まつりで買ったもの。 澁谷榮一 『詩壇人國記』 交蘭社、1933年1月11日 日本の詩人を出身県・地方ごとに分類して紹介。台湾・朝鮮・関東州の詩人も含む。5000円とたいへん悩ましい値段だったが、滋賀県の項に「高祖保」の名を見つけたので購入を…

『禽のゐる五分間写生』閲覧記

「かなぶん」こと、神奈川近代文学館へ行く。 高祖保の第2詩集『禽のゐる五分間写生』(月曜発行所、1941年)を閲覧するためである。 先月、石神井書林の目録より入手できなかったことで、古本病の悪いガスが行き場を失って心身を蝕んでおり、このままではと…

高祖保の装幀

八幡城太郎 『相模野抄』 青柳山房、1943年 高村光太郎 『をぢさんの詩』 太陽出版社、1943年 『相模野抄』は、俳人・八幡城太郎の第一句集。A6判・角背・上製カバー装の小型本である。上の写真は復刻版(青芝俳句会、1973年)。以下、そのあとがきより。 何…

文庫本の高祖保

「石神井書林古書目録」84号に、高祖保の第2詩集『禽のゐる五分間写生』を見つけたときには、たまげた。思わず箸を握り折り、ほおばっていたブロッコリーを吹き出しそうになった。夕食中のことである。 取るものも取り敢えず注文を出したのだが時すでに遅し…

高祖保と左川ちか

『左川ちか全詩集 新版』 森開社、2010年 錆びない言葉で切りとられたその詩の世界は、「いつまでもをはることはないだらう」。 新版になって、詩と散文が数篇増補されたのは嬉しい。が、旧版にあった18篇からなる追悼録が省かれてしまったのは、惜しい気が…

高祖保と高村光太郎

高村光太郎 『をぢさんの詩』 太陽出版社、1943年 高祖保が編纂から装幀までを手がけている。序文の最後に、 この詩集の出版にあたつては一方ならず詩人高祖保さんのお世話になつた事を感謝してゐる。 との謝辞がある。彼が同書に関わった経緯や編纂中の様子…

保忌

1月8日は、詩人・高祖保の祥月命日である。 午後、電車を乗り継いで墓参。彼の墓は、東京府中の多磨霊園にある。 1944年7月に召集を受けた詩人は、同年秋ビルマへ派遣された。陸軍第15師団(通称「祭」部隊)の野砲兵第21連隊に配属、1945年のこの日に戦病死…

高祖保の雪

2010年の大晦日、帰省先の彦根は朝から雪だった。 降りしきるそれは、高祖保が詠った粉雪。この冬、彦根ではそれまで雪がちらつくことはあっても、積もるほど降ったことはなかったと聞く。雪の詩人生誕100年最後の日がこのように雪で飾られたのは、天の計ら…

年の徂徠

年の徂徠 いま燈火(あかし)は、弱弱しげに、細まる。 乞丐(かたゐ)のやうな十二月が 見窄らしく扉(と)に衝(あた)つて、わが家の角を折れていつた。‥‥‥‥二足(あし)、三足(あし)。 そつと、闇のなかにと降(お)りてゆく、年の背(そびら)。 その…

雪の詩人・高祖保

「夜のからんからんに乾いた空気の、その底で」、高祖保の詩集『雪』を読む。 師走の夜ふけ、独坐する北向きの書斎は、寒い。 『雪』は、そんな場所で読むにふさわしい詩集である。 雪もよひ 寒い。 わかい歯科医のもとへ 一句 「歯石(しせき)はづす 夜の…