年の徂徠
年の徂徠
いま燈火(あかし)は、弱弱しげに、細まる。
乞丐(かたゐ)のやうな十二月が
見窄らしく扉(と)に衝(あた)つて、わが家の角を折れていつた。‥‥‥‥二足(あし)、三足(あし)。
そつと、闇のなかにと降(お)りてゆく、年の背(そびら)。
そのあとの空白を、粉雪(こなゆき)が性急(せつかち)にやつてきて埋めつくす‥‥
午前零時、たつたいま、
痩せこけた年の詩神は、息をひきとる。あゝ古ぼけた破(や)れ帽子のやうな年が死んだ。
――偃鼠(えんそ)に似た、暗い憶ひ出と一緒に。
睡りかけた鳩時計が唄を歌ひだす、
ぼつぷう、ぽつぷう、ぽつぷう、
(それ「萬有回歸(ばんいうくわいき)」の軌道が軋つてゐる)
わたしは唐艸(からくさ)模様の外套を羽織つて、
それから、雪のなかへと索(もと)めに出る
やつてくる年の
――さりげない火種(ひだね)を秉(と)りに。
高祖保 『雪』より