湖国最古の図書館・江北図書館

滋賀へ帰省した序でに、「江北(こほく)図書館」を訪ねた。
湖北・木之本にある滋賀県最古の図書館である。

同館は、木之本の北、余呉中之郷出身の弁護士・杉野文彌(1865-1932)が、明治35年私財を投じて郷里に開設した「杉野文庫」を前身とする私立図書館である。明治37年木之本に移転し、明治40年より「財団法人 江北図書館」として存続している。近く公益法人化されるとのこと。
在所は何度かかわっていて、現在のこのレトロな建物に移ったのは昭和50年からである。もとは伊香農業協同組合の事務所だった。JR北陸本線木ノ本駅のロータリー前に建っている。

ガラガラとサッシの引き戸を開け、スリッパに履き替えて入館。玄関奥の木の引き戸を開けると、そこはカウンター兼事務室である。ちょうどスタッフの方が地元の女性と歓談中であった。見学したい旨伝えたら、どうぞどうぞと快諾していただけた。

事務室の左側の部屋には辞書辞典類や児童書の棚があり、

一般書などは右側の部屋に集められている。ここには地域・行政資料の棚や、「滋賀の文学」のコーナーもある。

「江北図書館」の古い扁額。

ここだけまだ昭和が続いているかのような空間だが、

たしかに今を生きる現役の図書館なのだ。見学中、来館者がひとり小説の棚を熱心に見ていた。

許可を得て2階も見せてもらう。
格天井にアーチ窓の広間には、

現役を退いたと思しき蔵書や、郷土資料が集められている。



高さや色がまちまちな本棚たちが、

図書館の長い歴史を物語っている。寄贈を受けたり、少しずつ買い足したりして、増設されてきたのだろう。

いただいた開館100周年記念誌によると、江北図書館は昭和の大恐慌や太平洋戦争、戦後の混乱等に翻弄されて何度も存亡の危機に直面し、法人組織がほぼ消滅したことさえあったという。今もなお、バブル崩壊後の低金利市町村合併等の影響で苦しい状況が続いているようだ。それでもこうして存続しえているのには、創立者の志はもちろん、湖北の土地柄というのも大いに関係しているように思われる。
このあたりはかつて、木之本の東にそびえる己高山(ここうざん)を中心にひとつの仏教文化圏が形成された土地で、白洲正子の随筆でも有名な石道寺や渡岸寺の十一面観音像はじめ、国宝・重文級の仏像がゴロゴロ残っている。土地の人々が、はるか奈良・平安の古から守り続けてきたのである。木之本の南隣、高月町の歴史民俗資料館には、ボロボロに損壊したり焦げ跡があったりする仏像が展示してある。戦乱時に、住民が寺から救い出し田畑に埋めて守ったものだという。いちど地域に受け入れられた文物はなんとしてでも守り抜くという気質が、このあたりの人々にはあるようだ。
江北図書館、100年どころか500年でも1000年でも地元の人々に親しまれ、守られていくのではないだろうか。


※写真は許可を得て撮影・掲載