iPadのVoiceOverで本を「聴く」

iPadには、Mac OS X機やiPhone 3GSiPod TouchなどのApple製品と同様、画面読み上げ機能「VoiceOver」が標準搭載されている。

言語は「音声環境」にある9言語に対応。読み上げ速度は調整できるが、声質(男性・女性など)は選べない。英語・日本語・フランス語・イタリア語・オランダ語・中国語・ロシア語は女性で、ドイツ語とスペイン語はなぜか男性の声である。
この機能をオンにすると、画面の向きやホームボタンの位置、触れた項目、操作方法などを音声で教えてくれるだけでなく、Webページやメール、Office文書、iWork文書なども読み上げてくれる。ソフトウェアキーボードでの文字入力も音声でサポート。また、メニューやボタンは一度触れただけでは実行されなくなるので、視覚障害者は安心して操作できるだろう。操作はタップやフリックで行う。

この機能を使えば、視覚障害者は電子書籍を音声で読むこともできる。ただし、読み上げに対応しているのはEPUB形式で、リーダーアプリはiBooksでないとうまくいかないようだ。EPUB対応のStanzaでも試してみたが、音は出るけれど操作がきかなくなった。EPUBをサポートしていないKindleやi文庫HDはもちろんダメ。アプリ形式の京極夏彦『死ねばいいのに』もダメ。
このように制約はあるけれど、iBook Storeの本なら買ってすぐ音声で読める(日本のiBook Storeに並んでいるのは今のところ著作権が切れた無料の英語の本ばかりだけれど)。PCや高価なスクリーンリーダーは不要で、点字図書館などが音訳するのを待たなくてもいいのだから、視覚障害者の読書手段としてはかなり画期的である。iBook Storeにない本でも、EPUBに変換してiBooksのライブラリに入れさえすれば(この場合は要PC)、買った本と同じように音声で読むことができる。ただし、そういう作業を単独でできる視覚障害者はごくごく限られるだろうが。
試みに、こちらブックマークレット青空文庫の本をEPUB化して読み上げさせてみた。合成音声の無機質さと、漢字の読み間違いは気になるが、それは高価なスクリーンリーダーを入れたPCで読ませても同じこと。タダでこのクオリティなら上出来と言えよう。
だが、視覚障害者はこれで本当に読書気分を味わうことができるのだろうか。iPad 3Gモデルの購入を検討しているという職場の偉い人(全盲)に聴いてもらう。
「まあ、これじゃ読書はちょっと無理だね」
やはり。しかし、新聞・雑誌ならこれで充分とのこと。