書物の変

書物の変―グーグルベルグの時代

書物の変―グーグルベルグの時代

KindleGoogleブック検索の登場など書物の世界におとずれた変化を見つめながら、人と物資と記憶の関係の過去と未来について考察したエッセイ集。以下目次。

はじめに

  • 書物の変

I 書物の過去と未来

  • 図書館化する世界
  • 文字と印刷
  • 開架式の旅
  • 言葉の筆
  • 拡張される書物
  • 歴史の組み方

II 歴史の痕跡

  • 内なるグリッド
  • モネータと馬
  • 新しい遺跡文化
  • 自然のブラックボックス
  • 国境にて
  • テルミヌスの変身

III 情報・群衆・芸術

  • 琥珀の心
  • 感性と知性のボーダレス
  • 情報と感染学
  • 擬似群衆の時代
  • 見えない家具の芸術
  • 活字再生

おわりに

  • ランドネの道

「書物は建築である。」の一文で始まる、滅びゆく活版金属活字の世界を捉えた写真集『文字の母たち Le Voyage Typographique』の著者だけあって、電子書籍に関してはその記録媒体やデータ形式の寿命を危ぶんでいる。書籍などのデータ化と配信の意義は十分認めながらも、想いはリトグラフの石版、メソポタミアの粘土板、古代の貨幣、琥珀といった、「モノ」が媒介し喚起する記憶をめぐる。
ところで書物の変といえば、視覚障害者の読む書物ほどこの100年の間に大きく様変わりしたものはないだろう。紙の点字図書しかなかったところに、オープンリールの録音図書が登場し、それはカセットテープからCDへと姿を変えた。そして今や、点字図書も録音図書も、デジタルデータで読者にネット配信される時代となった。さらにテキストDAISYという形式での配信も始まろうとしている(TTSで読む)。書物はとうとうモノとしての形をなくしたのである。
これは今のところ視覚障害者の世界に限ったことだが、職場でこうした変化に日々接していると、一般の世界でも読むことの利便性と快楽を追求してゆけば、書物のデジタル化にいたるのは理の当然のように思われる。
だが、それでも紙の点字図書で読むことにこだわり、買ってまで手元に置きたがる視覚障害者がいるように、紙に印刷された書物や活字そのものを愛好する者が絶えることはないだろう。『文字の母たち』の後日譚のようなエッセー「活字再生」で港氏は、金属活字の意外な復活とブームに触れ、こうした動きは「文字もイメージも音も、すべてがデータ化された時代の後に来る、創造性のひとつの方向であろう」という。ならば電子書籍の次の革命は、この印刷文化の遺産から起こるのかもしれない。学生時代、手書き写本文化の遺産たるカリグラフィーに凝っていたスティーブ・ジョブズが、30数年後にiPadを作ったように。