蠹魚的台灣小旅行 台北篇

9月4日から7日まで台湾に滞在。
主に日本統治時代の建築を巡ったのだがそれはさておき、ここでは紙魚の琴線に触れたスポットを記しておこう。

日星鑄字行

台湾唯一の活字鋳造所。去年読んだ港千尋『書物の変』(せりか書房、2010年)で知り気になっていた。台北駅から近い路地裏にある。

アポなしで昼過ぎにぶらりと訪れたのだが、見学させてもらえた。言葉ができないと知るや、英語を話すお兄さんが出て来て親切に対応してくれた。感謝。
馬棚(活字棚)に囲まれて立つと、蒼頡の四つ目どころか何万もの目に睨め付けられているようで、厳粛な気持ちになる。平仮名もあったのだが、需要はあるのだろうか。

所有している楷書・明朝・ゴシックの3書体のうち、とくに楷書体(正体)は上海由来の貴重なものだというので、記念に楷書体の活字をいくつか購う。

ここの由緒正しい活字で高祖保の未刊詩集『独楽』が作れたら・・・などと妄想する。

出入りしていた客を見ていると、とくに若い女性が多かった。台湾でも若者世代に活字が見直されているのだろうか。
ここは現在、「台湾活版印刷文化保存協会」の拠点でもあり、「台湾活版印刷工芸館」の設立を目指して、所有する活字のデジタル化や修復などの活動も行っている。

誠品書店 敦南店

24時間営業の大型書店。老若男女問わず、客があちこちで床に坐りこみ本を読んでいる。立ち読みならぬ坐り読みである。図書館でもこんな感じなのだろうか。
初日の夜、ここで『台灣書店地圖』・『二手書店的旅行』の2冊を購う。
前者は「最豐富的書店散歩指南」を謳い、全国の主な専門書店・独立系書店・チェーン書店・古書店・ネット書店を、豊富な写真と地図とともに紹介。これ1冊で台湾の書店事情を窺い知ることができる。
後者は、都市部の個性的な古本屋26店をこれまた豊富な写真とともに紹介。今年の5月に出たばかりの本なので『台灣書店地圖』より住所の情報が新しい。ちなみに台湾で古本は、「舊書」あるいは「二手書」と表記される。
2冊とも眺めているだけで十分楽しいのだが、せっかくなので紹介されている古本屋をいくつか巡ってみた。

台湾大学界隈の古本屋+α

面白そうな書店の多くは台湾大学界隈に集まっている。MRT板南線公館駅を起点にすると効率的にまわれる。
以下、公館駅1番出口から地上に出たとして、羅斯福路と汀州路に挟まれた地域にある店を、東から西の順に紹介。

公館舊書城

名前は「神州纐纈城」みたいでやけにかっこいいが、なかは日本の大学周辺にもありそうな昔ながらの古本屋の趣き。

茉莉二手書店 台大店・影音館

台大店はなんというか、シックな「ささま書店」といった趣き。均一台はないけれど。

影音館は、中古CDと大学のテキスト類を扱う。

胡思二手書店 公館店

これまたシックでさらに珈琲も飲ませてくれる「ささま書店」といった趣き。

MRT淡水線士林駅のすぐそばに士林店がある。

ここで、鐘芳玲『書店風景』(宏觀文化、1997年)という欧米の書店の写真が沢山載った本と、中国語の書き込みがある三島由紀夫『外遊日記』(ちくま文庫、1995年)を購う。170元と80元也。

古今書廊 人文館・博雅館

同じ通りに2店舗ある。
人文館は児童書から文芸書、学術書まで取り扱いジャンルは幅広い。

博雅館の方は実用書が多い印象。日本語の雑書もあった。

以下は、羅斯福路三段から温州街にかけての店。

小高的店


入口に段ボールが山積みされていて入れなかった。なかは半分電気が消えていたし、休みだったのだろうか。

南天書局


古本屋ではないのだが、台湾研究関係の出版社兼専門書店として有名なので立ち寄った。ここで日治時代の研究書などをぱらぱらとみる。

雅博客二手書店


茉莉二手書店台大店に似たシックな内装、ゆったりとした空間に充実の品揃え。『二手書店的旅行』には「台北市最奢華的書店」とある。ここで李志銘『装幀時代 台灣絶版書衣風景』(行人、2010年)を購う。古本ではなかったので、480元也。戦後台湾の装幀家8人の仕事が、豊富な書影とともにまとめられていて、興味深い。序文によると、この著者は、台湾の古書業界の歴史をまとめた『半世紀舊書回味』という本も書いていて、こっちも面白そうだ。

あと龍泉街の「舊香居」にも行きたかったが、残念ながら時間が足りなかった。

牯嶺街の古本屋

順番が前後するが、台大界隈へ向かう前に、かつて古本屋街として栄えた牯嶺街に立ち寄っていた。ここのことは、南陀楼綾繁氏の『彷書月刊』連載「ぼくの書サイ徘徊録」第32-33回「台北紙魚たち」(2004年3-4月号)で知っていて、当初から旅程に入れていたのだった。以下、通りの北側から順に紹介。

松林書局


主人と思しき爺さんが店先に据えた安楽椅子に深々と座り、本片手に歌っている。その背後に本の山。どれも赤いビニール紐で縛ってある。爺さんの脇にピラミッドの盗掘孔みたいな隙間があけられていて、どうやらこれが店内へと続く入口らしい。生きて出てこられる自信がなかったし、ご機嫌な爺さんを煩わすのは忍びなかったので、素通りする。

易林書局


休み。ちなみにこの日は月曜日。

人文書


通りの反対側を歩いていると気付かずに通り過ぎてしまいそうなくらい(実際いっぺん通り過ぎた)、間口が狭い。鰻の寝床のような店内には古本のえも言われぬ薫香がたちこめる。思想系の本が多く目についたように記憶する。閉所恐怖さえなければ、ヒト科紙魚属の生き物にとっては居心地よい空間であろう。2階もあるらしいが今回は遠慮した。

書香城ほか2店


「書香城」とその隣(店名不明)はこれまでよりオープンな店構えだが、品揃えはいまいち個性に乏しい。写真右端も戸口から本が山と積まれているのが見えたので古本屋と思われるが、なかが真っ暗だったので入らなかった。あるいは倉庫だったのかもしれない。

台大界隈とは対照的に、牯嶺街の古本屋は枯れた印象で、客がひとりもおらず寂しかった。この日この通りで最も賑わっていたのは、古紙回収のトラック周辺なのだった。