Kindle 3のVoice Guide

Kindle 3には、先代KindleKindle DXにもあった合成音声による本文読み上げ機能・Text-to-Speechに加えて、操作メニューを読み上げる機能・Voice Guideが搭載されている。(現在いずれも音声は英語のみ)
Voice Guideの起動は、ホーム画面>Menu>Settingsの2ページ目で行う。ショートカットはたぶんない。

視覚障害者等のアクセシビリティに配慮したのだろう。そういえば昨年、Kindle DXを授業に導入するプロジェクトに参加したアメリカの大学数校が、視覚障害者団体に訴えられるなどしたという騒動があった。いくらText-to-Speechで本文が読み上げられても、操作そのものを読み上げなければ、視覚障害者には使えない。アメリカで、障害学生が使えないような機器を大学が導入することは、障害者の差別を禁じる連邦法「障害を持つアメリカ人法」(ADA:Americans with Disabilities Act)等に抵触するのである。プロジェクト参加校は続々不採用の決断を下した。アクセシビリティが不十分なために、Kindleは大学から閉め出されていたのだった。

※参考

そんな事情もふまえての搭載なのだろう。さぞかし配慮が行き届いていることと思いきや、これがなんとも中途半端な出来なのだった…
以下、残念に思った点。現在ファームウェアのバージョンは3.0.2である。

Kindle Storeを読み上げない

Shop in Kindle Storeまでは元気よく読み上げてくれるのだが、

そこから先はウンともスンとも言わない。よって、視覚障害ユーザは音声をたよりにKindle Storeで本を買うことができない。かわりに読み上げソフトの入ったPCからKindle Storeにアクセスして買うという手はあるが(Kindleにダウンロードさせることができる)、それでは、単体でいつでも本が買えるKindleの魅力が味わえない。また、内臓ブラウザも読み上げに対応していないので、音声でのWeb閲覧も不可。

入力文字を読み上げない

自分で入力した文字を音声で確認できないので、視覚障害ユーザは本文を検索したり、本の特定の箇所に移動したり、Collection(Kindle内のフォルダ)の名前をつけたり、といったことが自由にできない。特に検索ができない点は、学習利用する視覚障害ユーザにとって大きな不利益だろう。

声質・読み上げ速度の変更が面倒

iPadのVoiceOverと異なり、Kindleの場合、操作や表示の読み上げはVoice Guide、本文の読み上げはText-to-Speech、と機能が別れており、それぞれ別々に起動させる必要がある。Text-to-Speechだけ使いたい健常者にとっては寧ろその方がいいのかもしれないが、視覚障害ユーザにとっては面倒だろう。
Text-to-Speechは男性/女性の声が選べ、読み上げ速度もslower/default/fasterの3段階に調節できる。一方、Voice Guideは上記の設定画面ではOn/Offしかできない。
だが実際は、いじっていると気がつくのだが、二つの機能ともOnの状態で、Text-to-Speechの声質(男性/女性)や読み上げ速度を変更すると、それがVoice Guideの音声にも反映するのである。操作音声が調整できること自体は結構で必要なのだが、これじゃすごく面倒だ。まあ、このことはユーザーズガイドに記載がないので正式な方法ではないのだろうけど。

と、なんとももどかしいVoice Guideなのだが、Text-to-Speechの方も使い勝手がよいとは言えない。
いったんText-to-SpeechをOnにすると、ユーザは読み上げ音声をただ聴くことしかできなくなる。つまり、ページ送りボタンが利かなくなり、操作メニューもワイヤレスのOn/OffとShop in Kindle Store以外は選択できなくなる。目次からの移動や検索が不可能になり、ブックマークも、ノート・ハイライト機能等も使えなくなるのである。これだと、視覚障害ユーザはきわめて受動的な読書しかできない。DAISY図書に慣れている人には堪えがたいのではなかろうか。

これらの点を考えると、Kindle 3のアクセシビリティはまだ十分とは言いがたい。9月からフロリダ州の公立高校でKindle 3の試験的導入が始まったそうだけど、アクセシビリティの問題はクリアしたのだろうか。
ともあれ、新刊書を含め読みたい本を書店に足を運ぶことなく簡単に買えてすぐに読めるKindleには、特に視覚障害者の読書環境を大きく向上させる可能性がある。それだけに、アクセシビリティ面のさらなる改良が期待される。

ちなみに、今回のVoice Guide搭載に関して、上記騒動の当事者だった全米盲人連合(NFB:National Federation of the Blind)は、7月29日付で賞賛のコメントを発表したのだが、実機をさわってみて気が変わったのだろう。9月15日には一転して失望を表明している。

※NFBの声明