不在の言葉

古本まつりで賑わう神保町の裏路地で、ひっそりと「福田尚代展」が始まった。
喫茶「さぼうる」隣の「gallery福果」にて、1日から13日まで。詳細は、こちら

福田氏はこれまで、「言葉」に対する独自の感覚を、書物・手紙・名刺などを用いたオブジェや回文で表現してきた。そうした作品群には、詩や、入念に選ばれた言葉の断片、あるいは言葉の痕跡があった。
※過去の展覧会鑑賞メモ

だが、「言葉にまつわる連作の新たな展開 (ないこと)についての試み」と題された今回の個展で展示される6つの作品には、言葉らしきものはひとつも出てこない。罫線を残してマス目がくり抜かれた原稿用紙、ただこれだけが、海辺や高層ビル、個人の記憶などにかたちを与えている。
それらからは、不思議と「言葉のない世界」というネガティブなものではなく、なんというか、「ない言葉の世界」といった未知なものを感じる。

世界は言葉でできている」(山尾悠子「遠近法・補遺」)。けれど、その言葉は必ずしも形と意味を伴うものばかりではないのかもしれない。そんなことも考えさせられる。

「国民読書年」で「電子書籍元年」の「読書週間」に、あえてインクや声や電子の言葉で充満した日常を抜け出し、不在の言葉が織りなす世界をのぞいてみるのもいいかもしれない。