保忌


湖畔集の中の二行
カッフエと寺塔を軒なみに
北陸から雪をかづいできた貨車が息をつく街
その街、彦根、青春の墳墓の地といていた彦根、に春のひとときを訪れました。うらぶれた古城をとりまく荒廃の哀韻と、晩春の陽にかゞやく湖の悠久のしづけさの中に、湖畔集のひとつ/\を取り出しておりますと、ビルマの空より「念ふ鳥」となつて、湖のほとりに飛び帰へつているのではないかと、思われました。


宮部徳子「亡き詩人、亡き主人」より
『青芝』 15号 (天童高祖保追悼号、1954年11月)所収