阿佐ヶ谷で語られた2010年代の出版

昨晩、「2010年代の「出版」を考える」(@阿佐ヶ谷ロフトA)に参加した。電子書籍の可能性、出版の未来を議論するトークイベント。

出演は、

100名を超す参加者の大半が出版業界の人。仲俣氏が会場に向かってKindle持ってる人を聞いたが、手を上げたのは自分を含めて数えるほど。ちょっと意外。iPhone率は高し。Twitterやってる人となると、ほぼ全員が手を上げた。いまどきの業界人の生態を垣間見る。

3時間に及ぶトークから汲み取れた電子出版をめぐる現状とヴィジョンを、ごく簡単にまとめてみる。 ※注意:筆者のメモと記憶と主観による。

現状

  • IT業界は本の可能性に注目して取り込みたいと思っているが、出版社はネットやデジタルに対するアレルギー・拒否反応が強かった。
  • KindleiPadの登場で、以前よりは電子書籍が身近になってきていると思いきや、大手出版社の中にはIT業界にものすごくネガティブな考え(「ひとのネタを使って儲けているハイエナ」)を持っている人がいる。
  • 既存の出版社が電子書籍にまともに対応していないのには理由がある。市場ができていないから。
  • 読んでいる文字量は変わっていないが、金を出して読む比率が下がっている。
  • 出版は新規参入しやすいが、取次との関係など売り方が難しい。電子出版で、強いところはずっと強いという構造に風穴があく期待はあるが、電子書籍は「形」がないのでマネタイズが難しい。
  • ITをめぐる状況は変わりやすい。電子書籍の成功事例もない。だから、既得権益が大きいところも変わらなければいけないことは分かっているが、動けない。
  • アマゾン・アップル・ソニーなどは、英語圏での足固めに必死で、日本語圏はまだ視野に入っていない?

ヴィジョン

  • 単に紙の本を電子化するだけでは何の付加価値もないから、売れなくてあたりまえ。コンテンツの形自体を変えないといけない。
  • 電子書籍について考えるときは、小説や文芸作品ではなく、構造のある実用書・教育書を中心におくべき。
  • 電子書籍を作る際には構造化をしっかりしないといけない。現在は紙の本でも十分にできていない。
  • 紙と電子とどっちがいいかと比べるのはナンセンス。ネットを使って多様な本に触れられるプラットフォームを作るべき。結果、紙で売れるか電子で売れるかは問題ではない。
  • 著者印税9割モデル。出版・流通が介在しないモデルがあってもいい。年に1冊出して千部売れれば食っていけるようになれば、コンテンツのレベルも上がるのではないか。

うーむ、今年は電子書籍元年などと言われているけれど、日本ではもうちょっと先のような気がする。
最後のほうで会場から、電子化による視覚障害者などへのアクセス拡大の可能性について発言があった。たしかに電子化で恩恵を受ける障害者・高齢者は多いだろう。即時性を求められるコンテンツなら、単なるフォントの拡大や、精度はいまいちでもTTSや自動変換の点字で事足りるだろう。だが、電子書籍の中心になるべき実用書・教育書となると、それではたぶん実用に耐えないだろう。また、すでに長年、本の点字化・音声化を専門にする点字図書館という存在があって、無料か無料に近いサービスを行ってきた。これまで市場から締め出されてきた視覚障害者などが金を出して本を買うようになるかどうか。聞こえはいいが、ビジネスの目玉にはならないのでは。・・・というようなことをコメントしようかなと考えていたら、元芳林堂のおぢさんに先を越されてしまったのだった。