保忌


高祖保よ、君をかなしむ、
さやうならとも言はないで、
ビルマに消えた『雪』の詩人よ。
悲しい戰さの受難者よ。


高祖保よ、君をしのぶよ、
お行儀のよい來訪者、
禮儀正しい通信者、
待たれる人よ、待たれるたよりよ、


僕の孤獨の慰安者よ、
追悼文の豫定の筆者よ、
この番狂はせは、むごくはないか、
天へ昇つた天童よ!


ああ、呼ぶけれど答へぬ者、
天へ歸つた詩の雪よ、
高祖保よ、きこえるか、
とぎれとぎれの僕の聲が?


堀口大學「雪」
『雪國にて』(柏書院、昭和22年7月7日)所収

※「天童、高祖保哀悼詩篇」四篇のうちの一つ。悼詩四篇は『高祖保詩集』(岩谷書店、昭和22年11月10日)に序詩として再録された(若干異同あり)。